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〔要約〕
平成6年度から3年間にわたり「乗り心地のよい低動揺型船体形状の調査研究」を実施したが、基本である乗り物酔いのメカニズムの解明に関しては、医学、生理学、心理学の分野が主体であり、初年度は計測方法、計測器具の整備から出発しなければならなかった。
幸い医学界の有志の大きな支援を得て、世界初の工学と医学両分野が共同の目標をもって調査研究を進めることが出来た。多岐にわたる本調査研究の詳細は本文に譲るが、3年間で得られた結果を要約すると次の通りである。
1. 研究実績、実態調査;
「乗り物酔い」関連の過去の研究に関する内外357編の文献を調査した結果、乗り物酔いの発症過程を量的に解析評価した研究は見当たらず、かつ、工学、医学、心理学、人間科学等各々の分野での研究はあるが、複数分野の共同研究は極めて少ないことを明らかにした。その上で、これらの研究結果を随時参照できるようにデータベース検索を製作した。
2. 乗り物酔いのメカニズムの解明:
従来の研究は純粋な医学的、生理学的見地からのものと、工学的見地からのものかのどちらかで、その接点が見出せなかったが、本研究では工学的手法を基本としながらも、医学的、生理学的、心理学的アプローチを行ったものである。特に酔いの発症過程を解明するため、試験前、試験中、試験後の計測を慎重に行った。その主なものは次の通りである。
(I)精神的、身体的健康度の事前調査;
アンケート調査、血液、尿検査、心電図測定、平衡機能検査を実施し、試験中障害を発生する可能性のある被検者の有無を検した。
(II)動揺暴露実験;
試験前に平衡機能検査、採血、採尿を行い、試験装置内で着席状態で試験を開始し、心電図、血圧、脈拍、体温、脳波、表情、顔面温度等を測定した。試験中は一定時間間隔で心理状態の聞き取り調査を行った。試験終了後、平衡機能、心電図、体温と共に採血、採尿を実施した。
以上の調査、計測結果を解析した結果、
(A)心理変化の計測結果;
心理的変化の因子分析法、アンケート調査による4要因(空間環境、動揺刺激、生理、心理)の線形重回帰分析法による重要度摘出、更に、重要度について影響因子の階層化、階層化ファジー積分による解析を行った。結果として、ファジー積分による方法が要因間の加法性等の制約を受けることなく、統計的独立性が確保出来、乗り心地、乗り物酔いの評価に有用であることがわかった。
(B)生化学的変化の計測結果:
1)日常の健康度と酔いの発症の関係は、性格行動尺度及びストレス度が他の要因より強く、性格上タイプAまたは日頃ストレス状態に陥り易い人程酔い易いことが示された。

 

 

 

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